戦後の混乱期から “畳” を軸に事業をスタートさせ、その後リフォーム・不動産へと躍進を遂げた米倉親子の “家族対談” です。会長(父)の修二さんは長年畳職人として培った経験をもとに、若い世代が動きやすいよう経営基盤を整備。一方、社長(長男)の宏一さんは「現場肌のリーダー」としてリフォーム&不動産を次々と拡大し、専務(次男)の孝典さんは “職人出身” ならではの視点で経営と現場をつないでいます。 「家族経営だから息子とぶつかることはないのか?」「どうして畳から不動産までカバーするようになったのか?」――親子だからこそ遠慮なく意見しあえる強みや、“職人を大切にする”文化を根幹に据えた経営手法が、社員・職人・お客様のすべてを巻き込みながら成長していく過程を、存分に語っていただきました。家族だからこそ実現できる柔軟性と結束力が、米倉商店さんの大きな魅力として垣間見えます。
Talk Member
対談メンバー

相談役会長
米倉 修二

専務取締役
米倉 孝典

代表取締役社長
米倉 宏一

01
畳一本からの
時代の変化
まず、「米倉家族」が親子そして兄弟で会社を経営するようになった経緯を教えてください。
お父様(修二さん)が畳店からリフォームへと事業を広げてこられたのが出発点なんですよね?


相談役会長
修二
戦後まもなくの頃に私の父が北九州へ来て、昭和の二十年代から“畳一本”でやってきたんです。当時は和室文化が根強く、畳の張り替えや新調の需要も多かったですね。そこから会社として少しずつ形を整えていったわけです。

代表取締役社長
宏一
私と弟(孝典)は、父の姿を間近で見ながら育ちました。畳の張り替えだけでなく、和室から洋室への改装とか、水回り設備の交換とか、いろんな施工をしている姿を身近に感じていたんです。ある時期から「不動産もやるぞ」と踏み切ったのは、やっぱり「住まい」をトータルでお手伝いできる会社を目指したからだと思っています。

専務取締役
孝典
そうですね。高校を出てから私も現場で職人として動くようになりました。兄(社長)も同じく職人仕事からスタートして、今では社内の総合マネジメントも担当している。この家族経営という形が自然とできあがったのは、父と兄の根本にあった「畳だけじゃなくリフォームや不動産まで手を広げよう」というチャレンジ精神のおかげだと思います。

相談役会長
修二
畳の交換はお客さんにとって10年、15年に一度くらいしかない。間が空きますよね。だけど、ふだんの生活で「壁紙を替えたい」「水回りをリフォームしたい」というニーズはもっと頻繁にある。ならば畳以外にも工事を請け負えるようになったほうがいいだろうと。
しかも和室文化自体が少しずつ減っていく流れもあったので、“畳だけ”で商売しているとこの先厳しいんじゃないかという危機感もありました。
「家族それぞれが職人かつ経営者」というユニークなスタイルですが、
実際どういう体制で仕事をしているのでしょうか?


相談役会長
修二
私はいま“会長”という立場ですが、昔ほど現場には出ていません。だけど「ちょっと困った箇所がある」と言われれば顔を出すこともありますし、若い職人の育成面は気になればアドバイスすることもある。
ただ、メインで会社を動かしてるのは長男の宏一(社長)と次男の孝典(専務)ですね。私はもう「二人に任せて好きにやってもらえばいい」と思ってますよ。

代表取締役社長
宏一
社長業と言っても“社長室にこもっている”わけじゃなく、いまも弟(専務)と一緒に現場仕事やリフォームの現場管理をしているんです。リフォームの施工って解体しないと分からないことが多くて、現場で瞬時に判断を下す必要があるんですね。そこに私や弟の経験が生きるわけです。
会社の組織としては、私が全体のマネジメントや営業方針を決め、弟が実際の施工管理や職人とのやりとりをまとめる形が多い。父は“会長”として、月に1回くらいのミーティングで全体を見てくれている、という感じです。

専務取締役
孝典
私は専務という肩書ですけど、現場に出るときは「普通に職人」ですよ(笑)。兄との違いは、社長は経営面とか新事業に関することを優先的に考えて、私は“目の前のリフォーム案件をしっかり仕上げる”ほうに注力している感じ。父ともときどき連絡を取って「これは昔どうやってた?」とか聞くこともありますし、社内での役割分担は自然に出来上がってますね。

親子・兄弟で同じ会社を運営する
メリットと難しさってどう感じていますか?


代表取締役社長
宏一
兄弟喧嘩みたいになるときもゼロじゃないです(笑)。でも、結局「会社をよくしよう」という目標は一致してるわけだから、着地点は自然と見つかる。それに、家族でやっているとコミュニケーションのスピード感はものすごいですね。
あと、父が若い頃から知り合っている職人さん・関係業者さんのネットワークがあるのは大きいですね。「米倉商店といえば修二さんとこだよね」という信用がベースにあるので、社長になった私もやりやすいです。

専務取締役
孝典
そうですね。私は現場で職人さんたちをまとめたり、社内の業務を整理したりするときに、やっぱり「あれどう思う?」って兄にすぐ相談できる。で、父のほうも昔の知見があるから「これは昔こうやってうまくいったんだよ」ってアドバイスをくれるし、それを私がスピード感を持って取り入れられる。
会社というより、なんか“大家族の大きな組織”みたいな感覚で仕事が進んでいる感じですよ。

相談役会長
修二
私としてはメリットのほうが大きいと思ってます。一緒に仕事してれば、ミーティングのときに自然に「こうしたらいいんじゃないか」ってアイデアを共有できるし、何より身内なら裏切り合うことはないですからね(笑)。
もちろん、立場が近いぶん意見がぶつかることもあるだろうけど、それは別に血のつながりがあってもなくても同じ。家族ならではの“遠慮のなさ”が逆に良い方向に働くと思います。

02
社長・宏一さんが舵を取る
世代交代のとき
続いて社長の宏一さんにお伺いします。会長(お父さん)が築いてきた会社を引き継ぐ際、
抵抗や不安はなかったのでしょうか?


代表取締役社長
宏一
実のところ、特別な不安はあまりなかったんですよ。父(会長)は昔から「時代が変わっていくなら、若いやつが好きにやったほうがいい」というスタンスで、経理や管理関係も早めに任せてくれました。
僕としては「畳からリフォームへ」さらに「リフォームから不動産へ」と、暮らしに関わる範囲をもっと広げたいと考えていたんです。そこで、ホームページを活用したりインターネットでの集客に力を入れ始めたり、時代に合わせた動きをしていった感じですね。

相談役会長
修二
不動産事業もやっていれば、リフォームのノウハウが活かせますし、建物の売買や管理まで一気通貫でお客様をサポートできるメリットもある。

代表取締役社長
宏一
そうです。お客様から「空き家の相続をどうすれば?」という相談を受けたり、購入した中古物件をリノベーションして住みたいというニーズも多いですから。不動産にも本腰を入れれば、さらにお客様の役に立てる。
結果としては、畳からリフォーム、そして不動産まで、家に関わることをまるっとフォローできる体制が整いつつあります。
最後に、今後の米倉商店のビジョンや、
父から息子たちへの期待などあればお聞かせください。

相談役会長
修二
今は二人とも現場も見れるし、経営の面でも少しずつスキルを上げているので頼もしいですよ。
リフォームだけじゃなく、不動産事業とかも含めて、どんどん新しいことにチャレンジしてほしいですね。時代の変化は速いですから、大きく舵を切る必要もあるかもしれない。そのときは私の代じゃなく、息子たちの代で大きく形を変えていけばいい。

専務取締役
孝典
私は引き続き、現場の最前線を走りながら会社の中をまとめる役割かなと思ってます。兄や父みたいに現場経験があればこそ、職人さんとのコミュニケーションも取りやすいですし、お客さんにも「ここは自社職人がいるから安心」と言ってもらえますからね。
これから先、リフォームだけじゃなく不動産売買やリノベーションなどももっと盛んになるでしょうし、米倉商店はそこにちゃんと対応していきたいです。父が「若い者に任せる」と言ってくれてる分、責任は大きいですけど、家族で力を合わせて発展していきたいですね。

代表取締役社長
宏一
父が築いてきた「職人を大切にする」「お客さんにしっかり向き合う」という姿勢はずっと引き継ぎたいです。そのうえで、時代の技術やインターネットを活用しながら、北九州で「家のことなら何でも頼める」会社を目指したいですね。
私が社長になったからといって、現場仕事を一切やめるつもりはありません。職人としての経験が会社の経営に活きると信じてるし、何より社員や職人と同じ目線に立てるのは強みだと思っています。
